信号ラインの ミューティング用トランジスタ について

ミューティング関連の記事(こちら)をアップしたところ、お問い合わせが ありましたので、
ちょっと Mutingについて おさらいしてみましょう。

◆まず、Mutingの役割ですが 大きく分類すると 2つの事象への対応する役割があります。
  (1) 電源 on-off時の ショックノイズを少しでも小さくする。
  (2) 何かしらの動作(入力切替など)を 切り替える 時のノイズを小さくする。

これら 2つの事象に対応するには、対応策は同じ方法では うまくいかない場合が多いです。
なぜなら、

 (1) 電源on時のノイズを消すために 何らかの muting回路の動作で 消音しようとしても
   対応の回路動作自体が 電源が立ち上がらないと動作しませんから
   電源立ち上がり時に発生するノイズを消す動作が間に 合わない ・ ・ ・ のです。
    そこで、一般的には 電源投入時のノイズ対策には、電磁リレーを使います。
   電源が安定したところで、リレーをオンにして 「信号をつなぐ」 わけです。
   電源 オブ⇒オン の時には 「信号は繋がってない」 のでショック音が出ようがない訳です。

 (2) 動作切替時のノイズ対策には、反応の早い muting回路の動作が必要ですが
   電磁リレーは、切替動作時間による遅延が おおよそ5〜20mS程度生じますので
   ノイズが出てしまします。
    そこで、この場合の対応としては 切替時に信号ラインをトランジスタなどで
   「ショートしてノイズを小さくする」 方法をとります。 TRの動作時間は音声信号
   領域では問題にならないほど早いですから、信号切替するタイミングを逃さないように
   駆動すれば、ショック音対策が可能です。
   
このように、完璧を目指そうとすれば 2系統の muting回路が最低でも 必要になりそうだ
ということが 理解いただけたでしょうか。 電源オン-オフ時の muting対応回路については
既に、基板化したものがありますので こちら を参照願います。




次に、各種切替時の muting回路についてですが、その一例としては Combo384の
DSD-PCM切替時のノイズ対策として紹介した事例がありますので こちら を参照ください。

さて、 muting 回路に使われる TRは、普通の使い方と異なる使い方をしています。
NPNのトランジスタは、エミッタがアース側に接続されるのですが C-E逆になっています。

                  Muting TR 基本回路例
 


トランジスタを テスターなどで 導通試験してみると 2個のダイオードが組み合わさった
ような回路と 同等であることが言えそうです。  つまり コレクタ と エミッタは 逆にしても
使えそうだ ・ ・ と言うことが 分かると思います。


 (逆に使った場合は TRのスペック表にある特性とは異なってきます)


なぜ、ミューティングTRは エミッター と コレクタを逆にして使うのか ? ですが、これは
Vsat(オン抵抗)が、この方が 小さく出来る 「場合がある」 からです。 
 但し hfeは 小さいですから 十分なベース電流を流すことが必要です。


 < 参考>

  2SC1815で 実験したところ、Vsat値が

    ・エミッタ接地時 : 13.1mV
    ・コレクタ接地時 : 10.2mV 
   でしたので この場合 約30% ほどの差がありました。

   【 条件 : コレクタ電流= 0.5mA。ベース電流= 5mA 】
       (動作条件によって変わります。 参考値です)


さて、次に muting TR のダイナミックレンジについて確認してみましょう。
先ほどのTRの 等価回路は 2本のダイオードを組み合わせたようなものでしたから
音声信号レベルや極性によって 波形クリップが生ずることは容易に想像できます。


下の波形例は、上記 muting TR 基本回路例 の場合ですが、mutingオフ時の
マイナス側の Dレンジはなんと 0.5V 程度しかありません。 これでは、はっきり言って
 「使い物」 になりません。




そこで、muting オフ時は、トランジスタのベースを 逆バイスすることにします。
下の波形は、-5vの バイアスをかけた場合ですが、ちょうど 5v分だけ
改善しているのが 確認出来ます。




つまり、muting TR 回路のダイナミックレンジを確保するためには
ベース制御を マイナス側にまで 振ってあげれば良いことが分かると思います。

また、PCM1794等の DACの出力レベル 4.2Vrms(6.0Vpeak)にも 耐えられる
ようにするためには バイアスを -7v 以上かけたい所です、 が ・ ・ ・
一般のトランジスタの Vebo は、5V 程度ですので 定格オーバーになります。

さあ、どうしましょう ! ?



ということで 出てくるのが、muting 専用トランジスタです。
Veboを 5v → 25v 、 コレクタ側をアースに使う逆接続でも hfeが高い 等
一般トランジスタを muting に使った場合の問題点を 解決していますので
心おきなく、±15Vのバイアスをかけて使えます。



     2SC1815(一般用) と 2SD2704(Muting) のスペック例



なお、2SD2704 は 表面実装用ですが、ユニバーサル基板等で使いやすい
TO92相当 のMuting用TR では 2SC2878 や 2SC3327 があります。 
2SC3327 は若松通商に在庫があるようです。
(2SC3327は、2SC2878 と形状違いの 同等品です)


       新mutimg基板で使う予定の 2SC2878







これらの muting専用TRを使う場合、コレクタを接地した逆接続にしなくても
十分に、Vsat(Ron) は低いようですが、 やっぱり逆にして使ってしまうのは
私だけじゃないようで、 他でも よく見かけます。





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