LTSpice



ディスクリートタイプ
5V電源回路の検討

  * 許容出力電流を確認(計算)するに は  こちら  
* 電源基板を使用しして出力電圧調整する は こちら 


System72シリーズの標準電源として、type-STD2 を用意しています。
この電源基板は、1枚の基板で ±15V, +5Vの 3電源を供給出来るので DACやHPA等の電源としては 重宝するのですが、デジタルの 5V系を独立させたい場合や、電流がもう少し欲しい場合等に対応した 独立した 5V電源が欲しい場合があります。 今回は トランジスタを使ったディスクリート回路で 5V電源回路をシミュレーションソフトの LTSpice を使いながら設計したいと思います。

<条件>
  ・12Vpp x 2 巻トランス想定 (AC9Vセンタータップ相当,内部抵抗0.5Ω)
  ・負荷は、1000Ω、250Ω、100Ω、50Ω、10Ω (5/20/50/100/500mA)

   *回路的には +5V以外にも適用できますが、便宜上 +5V電源としておりますのでご了承ください。


今回の検討結果、完成した基板例です

基板上の部品は、最大25oとしています。


それでは、ディスクリートによる 安定化電源回路の設計を
LTSpiceを使いながら 進めてみます。


Zener + TR方式回路

ますは、トランジスタとツェナーダイオードを使った定電圧回路です。

デジタル回路用ですので、電圧の安定度は 5V±2%以内には抑えたいですが、
負荷電流 500mAで-0.2V位の 電圧降下が生じてますので、不合格です。 
また、出力電圧は ツェナーダイオードの電圧精度に影響されますので、
この回路は 今回の目的には不適格でしょう。

チャート補足説明
 ・緑/青/赤/水/朱 の各色は負荷を変えたときの電圧を示しています。

   緑:1000Ω負荷時 (約5mA)
   青:250Ω負荷時 (約20mA)
   赤:100Ω負荷時 (約50mA)
   水:50Ω負荷時 (約100mA)
   朱:10Ω負荷時 (約500mA)


誤差増幅付き回路

上記のような オープンループでは電圧安定度は望めませんので
誤差増幅&フィードバック回路を追加します。

差動方式で無くても良いのですが、後ほどオペアンプ方式との比較
もしますので、差動回路方式で 今回は設計してみます。

負荷に対する安定度は、500mA時で -0.04V程度ですので
十分な安定度といえます。 

(参考)・エミッターにツェナーを入れた 1TR式の誤差増幅方式でも 性能は同等です。
・リファレンスには、TL431をRef電圧2.495Vで使用します
。      


リップルが 10mVpp位あるのが 少し気になりますので、
次は その対策をします。



制御回路専用電源方式

制御トランジスタを駆動する回路の リップルを減らせば 負荷時の
リップルも減ります。 リップルを減らす方法は 色々ありますが、
大電流負荷のかかる 主電源と 小電流ですむ 制御・基準用とに分ける
ことで 制御部のリップルを減らすことが出来ますので ここを分けます。

さらに 制御・基準用の電圧を 高くすることで 更に安定度を
稼げますで、倍電圧整流回路として 整流回路を追加します。



結果、リップルは 1.5mVpp と 押さえ込まれていますので
回路的には、実用的な レベルに達したと思います。





デカップリング回路を追加

それでも、リップルが気になるという場合は 倍電圧整流回路に
抵抗 +コンデンサ の デカップリング回路を追加すれば、
残留リップルは 殆ど気にならない レベルまで 落とす事が出来ます。




誤差増幅にオペアンプを使用

トランジスタの場合、増幅度を稼ぐのは大変ですが オペアンプを
使えば一気に解決できます。 お気に入りのオペアンプ(OPA2604等が
使えれば、電源回路で 音作りも出来る !? かも。

オペアンプを、単電源で使うと 使用出来るオペアンプに
制限が出てきますので 整流回路は ±対応の整流回路とします。

一般的なオペアンプの許容入力電圧範囲 や 出力電圧は、電源電圧 Vcc/Vss より 2〜3V 内側と (2〜3V小さく) なります。 電源電圧範囲いっぱいで使える レール ツー レール のものもありますが、品種も限られてしまいますので オーディオ回路で使う オペアンプ用の電源は、±電源が望ましいです。


さすが オペアンプ ・ ・ ・です。 (OPA2604使用)
電圧変動、残留リップルともに激減しています。

下図のグラフは、スケールを100倍拡大している事に ご注意!!

制御トランジスタはダーリントン接続してないのですが Gain は十分に足りています。




参考 : 3端子レギュレータ LT1083

本家・本元 の 3端子レギュレータの例です。
上記の±電源オペアンプ方式には、さすがにかなわないようですが、
シンプルな回路でありながら リップルは 0.3mVpp程度です。




LTSpaiceでシミュレーションしながら設計した 5V電源回路をまとめてみます。 
ディスクリートの電源回路では 3端子レギュレータのように 出力電圧が保証されていませんので(当然ですが)、 とても危険です。 

DACチップなどの許容電圧は、+20%(6V程度)しかありませんので、できるだけ調整無しか 調整範囲を極力小さくして 間違っても、5V+20%を 超える電圧が かからないよう 気を遣って、設計する 必要があります。

一方、過電流保護回路は シリーズ抵抗を入れるため レギュレーションが悪くなりますので、出来たら 「無し」 の方が ベターだと思われます。


ということで、最終回路案は、なんと 3端子レギュレータも ついた、電源回路とすることにしました。 これなら 負荷側の動作試験をやる場合は過負荷制限回路付きの 3端子レギュレータ側でやって、 確認済みとなったところで ディスクリート側を使えば、安心して使用できます。 また、レギュレータ側の動作は、ディスクリート回路より 信頼性が高いと思われますので、その5Vを使って ディスクリート側の 過電圧制限保護回路も入れてみました。 理屈上では、5.6Vを超えると TR903 が ディスクリート側の制御TRを off しますので、それ以上の電圧は出ない ハズ ・ ・ ・ です。  
                             動作確認にて回路ミス発覚 後記参照


その他の小細工もありますが、回路を見ていただければ分かる と思います。


All ディスクリート方式の回路例





オペアンプを使った回路例



これらの回路で、基板を 設計・手配して
動作検証して見ることにします。



基板レイアウト案

Discrete方式


OPA方式



実装回路による確認

トランスは手元にあった AC9V/5VA 2回路のものを使用しました。 少しサイズ的には小さいのですが 動作確認用としては 大丈夫でしょう。 本番では、AC15Vで使用している 7.5VA 2回路の 容量サイズを 採用予定です





動作確認後の回路例 

回路検討時に行った小細工ですが電圧over保護回路は 回路ミスがあったため削除、その他も無くても 動作的に満足しましたので回路図上から 削除しました。 だいぶ、すっきりとした回路です。





実測データ

負荷特性の測定データーです。
3端子レギュレータICと遜色ない安定度が得られています。 

安定化する前の整流電圧(緑色)と 3端子レギュレータ側の出力(赤色)、ディスクリート回路側の出力(青色)のグラフです。 ディスクリートタイプの方が、動作電圧が小さくて済むようで データー上は 1200mA位まで使えそうですが、実際は トランスの容量オーバーしますので、このトランスとの組合せの場合は、500mAまでが 実用的な範囲です。
  許容値は こちら を参照

    (注1)最大電流は使用するトランスに依存します。
     (注2)測定時の負荷は各出力端子毎です。 同時取出しではありません。


<グラフ 1.>

下の図は、出力電圧を拡大したグラフです。  (変動値に置き直して拡大)800mAぐらいまでは、3端子レギュレータの方が 少しだけ安定していますが ディスクリート回路も実用上問題無い安定度が得られています。  最大負荷時に対する余力がある分だけ、ディスクリート回路の方が好ましいようにも思えます。


<グラフ 2.>



注意 !

上記の電流-電圧特性は、短時間の測定で行っており
使用状態における連続電流容量を保証する内容ではありません。

制御用トランジスタの損失による 発熱でトランジスタが
破壊する場合があります。 使用する トランスによって
大幅に変化しますので、下記 計算例を目安に定格内でご使用ください。



 
参考:許容電流 計算の例


・ 制御TR及び、3端子レギュレータの許容最大動作温度 125℃、
  ヒートシンク熱抵抗 25℃/W、 動作時周囲最大温度 70℃(ケース内想定) とすると

・ 許容電力 = (125℃-70℃) ÷ 25℃/W = 2.2W以下で使用。
・ 負荷時の整流電圧(入力)9.4Vとすると、許容電流は 2.2W÷(9.4V-5V)=500mA まで。

 実際の使用状態では、トランス・レギュレーションによる電圧変動があるので「要確認」です。
 ディスクリート回路のトランジスタには、熱保護回路がありませんので、
 
温度上昇により破損する場合がありますのでご注意ください。



下記グラフ 3. は、グラフ 1.の時の トランジスタの
電力損失を グラフにしたものです。 500mAで 許容値
の目安である、2.2W を超える事がわかります。


<グラフ 3.>




出力電圧の調整について




ディスクリート電源回路の出力電圧を変えたい場合は 出力電圧の、比較電圧検出部の抵抗比率を変える事により、可能です。  

検出部には、 R904とR906 、 R905とR907 で 構成されています。
 (下図、回路図 参照ください)

基本回路としては、 R904とR905による 電圧分割回路となっています。 実際の運用上は、電圧誤差発生時に 調整しやすいよう、並列抵抗を入れられるような 基板パターンとしています。 その調整用抵抗が それぞれ R906 と R907 となります。

電圧設定の考え方は、基準比較電圧用のIC921で発生する、2.495Vと上記の比較電圧として検出された電圧を、比較することにより出力電圧を制御します。


手っ取り早く、方法論だけ 単純に言うと 

 ◆ 電源の出力電圧下げたい → R904側を小さくする (R905は変えない)

 ◆ 電源の出力電圧上げたい → R905側を小さくする (R904は変えない)

という、抵抗値の調整になります。






もう少し、理論的に説明します。

検出部を、抜き出したものが下図回路です。
例として、 3.3Vの出力電圧設定に設定する場合として話を進めます。

  * 便宜上(説明をシンプルにするため)、 図にはR907は無しとしています。

電圧比較の原理ですが、必用な出力電圧Voを R904とR905 で 分割して得られる電圧を比較用の基準電圧と等しくなるよう、抵抗値を設定すれば良い事になります。
基板上には、R904とR905は、3.3Kと3.3Kで分圧回路を構成していますので、3.3Vの出力電圧を得るためには、R904を小さくすれば良い事になります。 つまり、R906を並列についかしてやれば 良いわけです。

R904とR906の並列合成抵抗値をRxとしたとき、分圧された電圧を式で表すと

   3.3k/(3.3K+Rx) x Vo = 2.495V
書き直すと
   3.3k/(3.3k+Rx) x 3.3v = 2.495v
      Rx = (3.3 x 3.3)/2.495 - 3.3 = 1.06Kと計算されます。

  合成抵抗が出ましたので、3.3Kと並列に入れる抵抗値を計算してみますと
  1.8Kの抵抗を並列に入れると 1.16Kになりますので ほぼ良さそうです。

 結論◆ R906に1.8K入れ R904(3.3k)と並列接続にする。

 実測したところ、出力電圧Voは 3.34V と若干高めとなりましたが、
 実用的な 電圧範囲といえます。








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